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本の紹介 ゴールは偶然の産物ではない

この本と出会ったのは天牛書店と言う古本屋である。店頭のワゴンセールの平台にはたくさんの背表紙が並び、タイトルだけが見えていた。

 

ゴールは偶然の産物ではない

 

このタイトルに目が奪われた。私はサッカーに詳しくないが、ゴールは偶然の産物だと思ってきたからだ。もちろんゴールに至るまでのパスまわしやアシストが技術の積み重ねである事はよくわかっている。しかしシュートが決まるかどうかは偶然なのだと考えていた。だから思った「ゴールは偶然の産物でなければ、一体なんなのだ」と。

手に取った瞬間にこの本は決してサッカーの技術を述べた本ではないことがわかった。表紙を見るとスーツ姿と思しき人がサッカーボールを踏んでいる。経営に関して本だったのだ。

 

そう思うと中身をじっくりと読んでみたくなった。

パラパラとページをめくると面白いキーワードがたくさん見つかった。

コミットメント、リーダーシップ、交渉の場で理性と感情、イノベーションなどである。広告に携わってきた私にとってこれらのワードに反応するなと言われても無駄である。思わず手に取りレジに向かっていた。なんせ100円だったのだから。

 

この本の著者はFCバルセロナ最高責任者だったフェラン、ソリアーノ氏である。

書かれた年は2009年、内容は主に2003年から2008年までのFCバルセロナの経営の話を軸に経営とはいかにあるべきかを述べている。

 

彼が担ったのは「成績が低迷するチームを何とか勝てるチームにして、赤字体質を改善し、投資すべきところに投資を行い成長軌道を描いていく」と言う大事業だ。その方法論がこと細かに書かれている。FCバルセロナというと話がビッグビジネスすぎて自分たちの身の丈に合った経営に役立たないのではないだろうかと言う心配はいらない。とても やさしく書かれているし、小さな会社でも十分に役立つ内容がつまっている。

 

彼のとった方法論を振り返れば非常にシンプルである。

それは経営にまつわる事実をくまなく調べて、戦略を立て、その戦略を愚直に進めていくと言うことだ。断っておくが、最初に決めた戦略を全く見直さないと言うわけではない。チームの成績によって、また間違った戦略を変えていくこともとても大切なことなのだということを自らの失敗事例で紹介している。

事業戦略を進めていく上で彼がポイントの1つとして挙げているのはコミットと言う考え方だ。少し引用しよう。

 

「ここで言うコミットメントとは気力をたぎらせ目的を達成するためなら苦労や努力をいとわないゆるぎない意志のことである」

 

これは営業ノルマを押し付けるためにさせられるコミットメントとは本質的に違う。自発的にやり遂げようとする信念や自信のことを指している。このコミットメントがあるからこそ困難に出くわしても、やり遂げようという原動力になり、最後はよい結果につながる。どのような会社であれ社員が、会社に関わってくれる人たちがコミットメントをしてくれるということが大切だと言うことを述べているし、FCバルセロナでそのコミットメントを引き出した方法も書かれている。

 

同様にリーダーの資質、チームの構成方法、どのような交渉方法をとるべきかであったりと非常に具体的な考え方やどのようにしたのかも書かれているのでダウンサイズして自分の会社に当てはめればとても参考になると思う。

 

好きなくだりを少し紹介しておこう。

それはイノベーションについて書かれているページである。また少し引用する。

 

「イノベーションとは新製品を作ることではなく、新しい消費者ニーズを見つけそれを満たすことだ。第一章でビジネス・フィールドについて述べたが、それと同じように次の質問に対し、革新的な気味合いの答えを探してみよう。

『あなたの商品は何か?』『どのようなニーズを満たそうとしているのか?』

イノベーションを生む人とはいちばん最初に何かをする人のことではなく、最初に消費者に到達することができて、しかもその商品が最高のソリューションだと消費者を説得できる先駆者のことである。」

 

著者はその例としてiPodを上げている。iPodはMP3プレイヤーとしては後発商品だが、iPodが音楽を購入する体験まで提供することによって消費者を熱狂的に取り込んだ最初のMP3プレイヤーソフトになった。これこそがイノベーションだと言うのだ。

 

経営者としてこのイノベーションの定義はビジネスに活かせる。ニーズを察知してどうすればお客様に取り入れ、使い続けてもらえるのかを真剣に考える時、きっとそのヒントが見える。ということを示してくれているのだ。

 

ネタバレのようで申し訳ないが、彼の主張のエッセンスが終章に書かれていたので紹介しておこう。

 

「これまで繰り返し述べてきたように理論的な分析を回避できる事象などそうない。偶然や運は生活の一部であり、スポーツでも起こりうるが、人生とは様々な出来事が理由もなく連続して起きているわけでもない。したがってビジネスでは、自分が身を置く業界や自分の商品、満たすべき顧客のニーズについて理解することが大事だ。それをきちんと把握するまでは、闇雲に動き出してはならない。成功も失敗も私たちの下す決断にかかっているのであって、チャンスや神の御業によるものではない。」

 

決して、何も考えないで一発当ててやろうという魂胆からはゴールは生まれない。よくお客様を見て、ニーズを一生懸命考え、どうすれば振り向いてくれる・買ってくれるだろうかという策をしっかり決めて一心不乱に取り組むこと。それがゴールにつながるのだとおっしゃりたいのだと私は理解した。

 

どのように経営していけばいいのだろうかと迷われている社長様、これから経営者を目指したいと言われる人には読んで欲しい本だ。もうひとつサッカーファンなら選手名も出てくるしFCバルセロナの裏側を覗けるようでとても楽しいと思う。著者はクールな切れ者的な経営者だが所々でつい熱き思いが噴き出てしまう。その語り口に引き込まれてしまう興味深い一冊です。